第3回|意向表明でM&Aの成否は決まる

買い手視点・株式譲渡を前提に、意向表明書の精度を高める体制構築を整理します。

1. 意向表明が決定的に重要な理由

デューデリジェンス後の譲渡価格の減額は未払残業代・税務リスク等のテクニカル事項に限られることが多く、
M&Aの流れ(候補先選定 → 初期的分析 → 意向表明 → デューデリジェンス → 交渉 → 契約)のうち、譲渡価格は意向表明段階でほぼ固定されます。
この時点でシナジーを定量化できなければ、高値掴みあるいは過小評価による案件不成立のリスクが跳ね上がります。

2. 意向表明書を高精度化する体制構築

(1)役割分担

FAは候補探索、株価分析、交渉助言の専門家であり、シナジー分析や統合可能性の分析は専門外です。ここは自社でコミットする必要があります。定量化したシナジーをFAに提示し、シナジーを踏まえた譲渡価格上限、すなわち株価分析を依頼します。

項目主担当タイミング
業界分析経営企画候補選定前。必要に応じて戦略コンサルに依頼
事業分析管掌事業部リストアップ後~意向表明前
シナジーの定量化経営企画+事業部+管理部門意向表明前
株価分析FA意向表明前
統合費用管掌事業部+管理部門意向表明前が望ましい

(2)社内キーパーソンの早期関与

  • 統合担当者を意向表明段階で関与させる
    実際に統合をリードする事業部長クラスが対象会社の運営可能性を評価する必要があります。
    候補先マネジメントとの会食に同席し、統合後の運用を議論することで以下2点を同時に高めることができます。
    ①対象会社からの求心力(統合後の協力体制構築)
    ②統合担当自身の案件へのコミットメント(「押し付けられた案件」という心理の回避)
  • 管理部門による統合費用の簡易試算
    意向表明前に統合費用・期間を簡易試算することで、楽観的なシナジーの定量化を抑止できます。

3. まとめ|意向表明は「条件提示」ではなく「企業価値ストーリー」

  • 意向表明段階でシナジー分析を誤ると、DD後に取り返すことはほぼ不可能
  • 統合をリードする事業部の早期関与が価格・統合両面の成功の鍵
  • 体制構築の失敗は高値掴みと統合失敗の起点になる

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