第1回|失敗するM&A

M&Aは経営の一手段として定着する一方、失敗事例も多く報じられています。本コラムでは、M&Aの成功確率を高めるための体制構築について、全5回で解説します。

本コラムでは、経営の目的は企業価値向上であり、企業価値は上場・非上場を問わず、株式価値を中心とした定量概念と定義します。

まず、M&Aは成長のどのような局面に活用すべきでしょうか。こちらの伝統的なフレームを参考に考えてみたいと思います。

既存製品新規製品
既存市場市場浸透製品開発
新規市場市場開拓多角化

以下の具体例のように理論上、すべての象限で活用可能です。

  • 市場浸透:同業の買収
  • 製品開発:周辺技術の買収
  • 市場開拓:海外同業の買収
  • 多角化 :異業種の買収

M&Aはあらゆる成長手段に活用できる一方で以下のような構造的リスクを内包します。

目的が不明確 → 手段が目的化 → 評価軸を喪失 → 統合活動の混乱→企業価値の毀損

具体的には「M&A予算〇億円」と社外に掲示すれば、多くのアドバイザーが案件を持ち込みます。このとき「何を実現したいのか」の軸が不明確であれば、案件のスクリーニングが機能せず、対応する社内リソースが空転します。案件が進まなければ、アドバイザーが距離を置く可能性があります。
アドバイザーは、M&A実行における強力な味方です。一方でその報酬は買収価格に比例する成功報酬である点を理解し、案件の実行・中断は経営自身がオーナーシップをもって判断する体制が求められます。

定量面でも留意すべき構造があります。買収価格は、対象企業の既存事業計画が出発点となります。この計画を上回る価格で買収すれば、シナジーが実現しない限り損失を被ります。
定量的にM&Aを成功させるためには、以下のいずれか、あるいは両方の実現が必要です。

  • 事業計画を下回る価格で買収する
  • 1+1>2となるシナジーを具現化する

前者の場合、競争環境の低い案件を引き寄せる体制構築が求められます。加えて評価が低い理由を分析し、許容できるリスクか見極めることも求められるでしょう。
後者の場合、価格が実質的にロックされる意向表明段階までにシナジーを検証できる体制が求められます。

企業価値の最大化という目的のため、それぞれのプレイヤーのインセンティブを理解したうえで、その強みを統合し、意思決定を行う体制の整備が鍵となります。